日々彦「ひこばえの記」

日々の出来事、人との交流や風景のなかに、自然と人生の機微を見いだせてゆけたら、と思う。※日々彦通信から一部移行。

読書ノート

書評:ルトガー・ブレグマン(著)『Humankind 希望の歴史』

○本書は各方面から注目されている本で、読み始めたらとても面白く、上下合わせて500頁程、全編説得力あり、論理的展開も見事で一気に読んでしまった。 著者は、1988年オランダ出身の歴史家、ジャーナリスト。※(翻訳)野中香方子 この著のポイントは大きく二つ…

書評:なだいなだ『娘の学校』と『続娘の学校』

○友人のブログに促されて、なだいなだ氏の『娘の学校』と『続娘の学校』を読んだ。 両書は、作家・精神科医のなだいなだ(1929~2013)が、フランス人の奥様との間に生まれた四人の娘たちに語りかける形で書いたエッセイで、著者の代表作と言われている。常…

◎法学者・團藤重光さんのこと(たまゆらの記㊱)

○2023年4月にNHKETV「誰のための司法か〜団藤重光 最高裁・事件ノート」をみる。 内容は、1969年12月、大阪空港公害訴訟で、航空機騒音に苦しむ住民が国を訴えた。この訴訟は、公害で初めて国の責任が問われた。住民は、「夜間の飛行停止の差止」を求めた。…

◎書評:養老 孟司『無思想の発見』(ちくま新書、2005)。

〇本書は、日本人は無宗教・無思想・無哲学だと言われているが、さて無思想とは、どのような事態か。 もしかするとそれは、「ゼロ」のようなものではないのか。つまりゼロとは、「なにもない」状態をあらわしつつ、同時に数字の起点でもある。ならば、「思想…

◎書評:100分de名著 パスカル『パンセ』

この著書、番組は、読みたいと思っていて読んでいなかった名著と言われる本や作家を簡潔に紹介してくれ、著者もそれなりの人が選ばれているし 選ばれた著者もしっかり書いているものが多いので、原典に手が出しにくい今の自分にとってありがたい。 この番組…

◎書評:長谷川眞理子+山岸俊男『きずなと思いやりが日本をダメにする』

〇本書は大きく二つの軸「進化で作られた人間の性質を出発点とする」、「人は社会システムの中で動いている」で対談が進む。 テーマごとに次のようにまとめられている。 ①何が問題なのか?(観察) ②なぜそのようなことが起こるのか?(機序) ③それを改める…

◎固定観念としての健康観(イヴァン・イリイチ「管理された健康に抗して」から)

※健康について(イバン・イリイチ「管理された健康に抗して」から)タイトルを変えての改訂再録。 〇健康は,一人ひとりの人格に応じて定義され、一人ひとり違ったしかたで求められる。 固定観念は、「俺は絶対にこう思う」というのもあるが、時代や環境に影…

◎異質なものとの共存(ブレイディ みかこ『他者の靴を履く』より)①

〇人類史において「協力」および「共存」が進化の一つの大きなキーワードになると言われている。それには「共感」によるものだけではなく、異質なものとの共存が大事になると考える。 また、共感による繋がりの危うさも取り上げられるようになった。 多様性…

◎多元主義と「多一論」(中島岳志×島薗進『愛国と信仰の構造』から)➂

◎多元主義と「多一論」(中島岳志×島薗進『愛国と信仰の構造』から)➂ 第七章「愛国と信仰の暴走を回避するために」では、我が国のネット右翼の台頭や世界各地で進む伝統宗教の復興、宗教ナショナリズム、原理主義が存在感を強めている理由から、違いのある…

◎ユートピア主義と近代科学(中島岳志×島薗進『愛国と信仰の構造』から)②

※中島岳志は、「自力と他力のユートピア主義の間で揺れる近代」で色合いの違う戦前の二つのユートピア主義を取り上げる。 ひとつは、日蓮主義系の超国家主義者のように、社会を宗教的・合理的に設計すれば、理想的な社会が実現できるとする設計主義的なユー…

◎ユートピア主義と全体主義(中島岳志×島薗進『愛国と信仰の構造』から)①

〇中島岳志×島薗進『愛国と信仰の構造』「全体主義はよみがえるのか」を読んで。いろいろと学ぶところが多かった。特に、本書全体を通して「宗教とは何だろう」を考えることになった。対話の二人も「宗教とは何か」の再定義の必要性を述べている。 『ウィキ…

◎もうろくの冬から(鶴見俊輔『敗北力』を読む)

〇『敗北力−−Later Works』は、2015年7月、93歳で死去した哲学者、鶴見俊輔さんの遺著ともいうべき本。 「Later Works=レイター・ワークス」は鶴見さん自身が書き留めていた言葉で「晩年の作品集」という意味合いになるのか。文芸評…

◎書評:増田望三郎(著)『安曇野で夢をかなえる』(安曇野文庫 Kindle版、2018)

〇我が家感覚のゲストハウス・安曇野地球宿の主宰として、市民共感の市政をしている安曇野市議会議員として、意欲的な社会活動を展開している実践者として、常々注目している増田望三郎氏の自伝『安曇野で夢をかなえる』を、この正月に読んだ。 本書は2016年…

◎〈対話〉の可能性(鷲田清一「ひとを理解すること」から)

〇先日掲載した、平田オリザ『対話のレッスン』の「二一世紀、対話の時代に向けて」で次のように述べる。 〈二一世紀のコミュニケーション(伝達)は、「伝わらない」ということから始まる。……対話の出発点は、ここにしかない。 ・私とあなたは違うというこ…

◎他者の異質性を尊重する社会(中島義道『「対話」のない社会から)

〇中島義道『「対話」のない社会―思いやりと優しさが圧殺するもの』を読む。 第1章「沈黙する学生の群れ」で、「何か質問は?」と教師が語りかけても沈黙を続ける学生たちなど具体的なご自分の体験の事例をあげ、第2章「アアセヨ・コウセヨという言葉の氾濫…

◎「命の閉じ方」(佐々涼子『エンド・オブ・ライフ』を読む)

〇本書は、著者が在宅医療の取材に取り組むきっかけとなった自身の母の病気、それを献身的に看病する父の話を横軸に、看護師の男性との出会いと別れを縦軸に、京都の診療所を舞台に、在宅医療に関わる医師や看護師、そして患者たちの7年間にわたる在宅での終…

◎沈黙の灰の中から呼び起こし(遠藤周作『沈黙』を読む)

※マーティン・スコセッシ監督の映画『沈黙』を観る機会があり、その後遠藤周作の小説『沈黙』を読んだ。 〇小説『沈黙』 寛永14(1637)年の島原の乱が鎮圧されて間もないころ、キリシタン禁制の厳しい中、隠れキリシタンが僅かに残る江戸期日本に、二…

◎ひとりの〈ふつう〉の人として(吉本隆明についての覚書)

※7月度のNHK100分de名著は「吉本隆明“共同幻想論”」を取り上げた。 『共同幻想論』は私には難しくて、読み通ししたことはない。しかし、その中の言葉「沈黙の有意味性」「大衆の原像」などに魅力を覚えることがあり、それについて考えることがある。 国…

◎書評:守下尚暉『レミアの翼』Kindle版。

〇守下尚暉『レミアの翼』Kindle版(パブフル、2017)を読む。 守下尚暉『根無し草』を読み、表現力が巧みで、物語としても読み応えがあり、続けて他作品も読んでいます。 まず、守下著『レミアの翼』を読みました。学園生活の合間に十四歳から十九歳に書い…

◎「記憶を失うと、その人は“その人"でなくなるのか?」

〇恩蔵絢子著『脳科学者の母が、認知症になる』を読んで。 内容は、記憶を失っていく母親の日常生活を2年半にわたり記録。アルツハイマー病になっても失われることのない脳の力を、脳科学者として、娘として考察していく。 認知症に関して、家族や仕事でいろ…

◎語りなおしと、その〈伴走者〉(鷲田清一『語りきれないこと 危機と傷みの哲学 』から)

〇鷲田清一『語りきれないこと』から 東北大震災以後に書かれた、鷲田清一『語りきれないこと』を読み返した。 「まえがき」で鷲田は次のように述べている。 〈被災地の人たちのからだの奥で疹いたままのこの傷、この苦痛の経験が、やがて納得のゆく言葉でか…

◎倉本聰『昭和からの遺言』1・2(足裏の記憶)を読んで

〇友人に紹介されて倉本聰『昭和からの遺言』1・2(足裏の記憶)を読んだ。 倉本聰が昭和の時代を、自らの体験と独特の切り口でふりかえる。NPO法人富良野自然塾の機関紙『季刊・カムイミンタラ』連載をもとに書籍化したもの。 1冊目、2冊目をとおして、…

◎鶴見俊輔「言葉のお守り的使用法」から

〇鶴見俊輔は自らも含めて立ち上げた雑誌『思想の科学』の活動目的は、「第一に敗戦の意味をよく考え、そこから今後も教えを受け取る」こととし、「大衆は何故、太平洋戦争へと突き進んでいったのか?」を問い始める。その理由の一つとして、「言葉による扇動…

◎手づくりの定義へ(『定義集(ちくま哲学の森 別巻)』から)

〇手づくりの定義へ 日ごろ思うこと感じることを、話したり書いたりしている。その当たり前と思っている見解について、振り返り調べて見直ししていくことも大切にしたい。 『定義集(ちくま哲学の森 別巻)』(鶴見俊輔・安野光雅・森毅・井上ひさし・池内紀…

◎過去も未来も、いまここにしかない。(柳美里著『町の形見』を読んで)

〇この作品をとおして、東日本大震災のような社会的影響に及ぶものから個人的なものまで、ある体験を語ることや、戯曲・小説など文芸作品として表現することについて考えた。 上演を見ていないが、巻末の解説文を参照しつつ舞台を想定しながら読んでいた。 …

◎マルクスの自分中心的な人間観から「地動説」的な人間観への転換(内田樹『寝ながら学べる構造主義』から)②

わたしは知識としては地動説を知っているが、感覚としては,日が昇り・日が沈むといい、自然界の動きなどについてはほとんど、自己を軸にした天動説な見方をしていることが多い。これはものの見方、思考方式そのものが、少なからず天動説的な感覚を持って暮…

◎私たちは「偏見の時代」を生きている(内田樹『寝ながら学べる構造主義』から)①

〇本書のまえがきで次のように述べる。 〈知性がみずからに科すいちばん大切な仕事は、実は「答えを出すこと」ではなく、「重要な問いの下にアンダーラインを引くこと」なのです。 知的探求は(それが本質的なものであろうとするならば)、つねに「私は何を…

◎「虚構」を軸に(ユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』を読んで)

国家、家族制度、法律、貨幣、宗教、〇〇主義など、すべて人間が作り出した虚構(フィクション・物語)、つまり存在しないものを信じる能力・想像力によって、他の生物種には見られないほど大規模な社会的協力が可能になり、一方、大がかりな紛争や戦争に発…

◎「人間の人間たるゆえんは家族にあると考えている。」(山極寿一)

〇ダーウィンの進化理論以後、そもそも霊長類からヒトはいかにして生まれたかの根本問題に光が当たるようになり、戦後日本において霊長類学が再興されたことなどにより、様々のことが解明されてきた。 その研究成果から、700万年の間に、霊長類から人類誕…

◎共同体は一つの大家族ともいえないか(福井正之『追わずとも牛は往く』から)

〇『追わずとも牛は往く』は、著者の40年ほど前の「北海道試験場」(「北試」―ヤマギシ会)の体験をふまえ、書き進められた。記録文学である。 この作品では、「北試」の体験をもとにした物語上の村『睦みの里』での、厳しいが豊かな自然・大地の中で、追わ…