日々彦「ひこばえの記」

日々の出来事、人との交流や風景のなかに、自然と人生の機微を見いだせてゆけたら、と思う。※日々彦通信から一部移行。

「凸凹のためのこころがまえ」1(子育ちアイリス通信6)

○三木 崇弘著『リエゾン-こどものこころ診療所―凸凹のためのおとなのこころがまえ』から。

本書は医療漫画として高名な『リエゾン-こどものこころ診療所-』の監修を務めた児童精神科医の三木崇弘氏による心療の入門書。

 

人気漫画『リエゾンーこどものこころ診療所ー』各話で取り上げられている診療例のほか、著者の現場での経験から実例を交えながら、症例や発症の実際をやさしく解説する。

本書は、様々な困難を抱えた子どもの親などだけでなく、子育ちに向かい合っている保護者や支援者にも参考になるヒントが多々あり、しばらくこの通信でも取り上げていこうと考えている。

 

○凸凹の意味

本書は困難を抱えた子どもたちを「凸凹」と表現をしている。

著者は次のようにいう。

《今医療や教育の現場で「凸凹」という表現を使うことはほとんどなく、「発達障害」「発達特性」「発達特性からくる困難さ・困り感」などの言い方をします。本書ではこれらを含め「凸凹」という表現が繰り返し登場しますが、どれも概ね似たような意味で使っている。》

また、能力の高低ではなく、得意と不得意の差が大きいというイメージともいう。

 

「凸凹」という定義がはっきりしない曖昧な表現は、専門家や各種現場では使いにくいだろう。しかし、わたしは面白い表現だと思う。

「発達障害」と呼ぼうが「発達特性」と呼ぼうが、要するに現社会の標準・基準とされていることとかけ離れているゆえの困難だ。

「凸凹」は社会との関係の中にあり、標準仕様に用意され社会の仕組みと、うまく噛み合わないとことから困難が発生する。

 

子どもだけではなく、わたしを含めどの人も多かれ少なかれ「凸凹」がある。

無数の凸凹が、つくる小さな集まり、大きな集まりが、家族になり、社会になったりする。

 

ひとりひとりおのれの得手については、人の分までやってあげて、代わりに不得手なことはそれが得意な人にやってもらう。

この相互扶助こそが多様的な社会の基礎となるべきだと思っている。

 

相互扶助的な社会には乳幼児もいるだろう、病気、高齢などによりほとんど寄与できない人もいるだろう。

そういうことも含めて「相互扶助的な社会」が成り立つには、その規模によるが、さまざまな英知を結集し、各種の仕組みがいる。

「放課後等デイサービス」もその一つとわたしは考えている。

 

○診断名とは、理解と支援のために“使う”もの

発達障害の診断の難しさについて。これは第1章で触れられている。

医師が診断をするうえで何を知りたいのか、どう判断するのかを解説しつつ、「そもそも診断って必要なの?」という地点まで掘り下げてくれる。

 

著者は次のようにいう。

《診断のために必要な「状態」「状況」の情報は個人差が極めて大きく、そういった意味では「これがあるから100%こうだな」と分かりやすく診断ができるわけではありません。

(中略)同時に僕は、「どんな診断名がついた子なのか」ということよりも、「こういう診断名がついた子だから、それをきっかけにその子をどう理解して、どう対応するのか」にフォーカスしたいと思っています。どう対応するのかを考えるときには、診断名があったほうがいい場合が多いです。というのも、診断が出て初めて得られるものがあるからです。》

 

診断名は困っている子どもの役に立つもので、理解と支援のために“使う”もの」と説いていく。

診断名による分類は大事だが、その一方で「そもそもこの子はどういう特性があって、何に困ってどう感じているのか」をしっかり見つめていく目線も需要である。

 

また、診断や各種障害名はその人の困難を理解するには一つの目安になるもので、優れた知見もあり、参考になることもあるだろう。

だが、障害名だけで何が分かるのだろうか。その人が数年~十数年程生きてきて、得てきたものがたくさんあるのだし、その障害名だけで、決してその人は見えてこない。

 

○大切なのは、どこまでも子どもと向き合おうとすること

「まえがき」で著者は次のことを述べる。

《この本を手に取ってくださった保護者・支援者の方にお伝えしたいのは、「あるべき姿を思い描くこと」「でもそれがなかなか実現できないことを受け入れること」「それでも諦めずにまた子どもと向き合おうとすること」の大切さです。》

この三点は、本書全体のエッセンスでもあり、常に心において置きたいと思う。

 

この場合、ひとりひとりの今の状況に合わせた姿を思い描くことが必要だ。

わたしたちは表面の現象に現れたもので、人のことを分かろうとしている、分かったつもりになっている。その現象がどのような内面から生じているのか。あるいは、その人の内面はどうなっているのだろうかと、じっくり見ていく。

その人のあるべき姿から、今の短期・長期の目標を描き、やってみての熟慮と観察のもとに見直すことをいとわずに、諦めずに子どもと向き合い続けることが大切だと考える。難しいことだが。

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※三木 崇弘著『リエゾン-こどものこころ診療所―凸凹のためのおとなのこころがまえ』(講談社、2023.1)

放課後等デイサービス「アイリス」ホームページ

https://www.gurutto-iwaki.com/detail/2748/index.html