日々彦「ひこばえの記」

日々の出来事、人との交流や風景のなかに、自然と人生の機微を見いだせてゆけたら、と思う。※日々彦通信から一部移行。

◎<子どもは、かわいがられるからいい子になります。〉(佐々木正美)

※友人が、来年4月開所する予定の施設【放課後等デイサービス アイリス】のホームページを開設したことを機に、「放課後等デイサービス」のこと、子どもの健全な育ちについて改めて考えている。そのひとつの視点として参考になると思う。

 

〇〈子どもは、かわいがられるからいい子になります。かわいい子だから、かわいがるのではないのです。〉

これは佐々木正美『子育てのきほん』の「はじめに」にあることばです。

 

 佐々木正美氏は児童精神科医として多くの共鳴者があり、わたしも敬愛している方です。

 ひとを幸せにするもっとも大事なことは良質な豊かな人間関係であり、乳幼児期の重要課題として基本的信頼感の構築をあげている。

 

 そのように考えたことは今までないが言われてみれば大事な視点と思う。

「かわいがられるからいい子になる」というのは双方的であり、「かわいい子だから、かわいがる」は一方的な思い方のような気がする。

 

 佐々木氏の好きな言葉として発達心理学者で精神分析家・エリクソンの「よい人間関係というのは、どんな人との関係であっても、相手に与えているものと相手から与えられているものを、双方が等しい価値と認識し、実感しあっている」を紹介している。

 

 人間関係でよく思うのは、こちらが好ましい人だと思うと相手もそのように思っていることが多いし、嫌いなあるいはヘンな人だと思っているときは、相手もそのように思っていることが多いのではないか。

 質の良い人間関係は双方的なこころの交流だと思っている。

 ちょと広げると、対人・人間関係はこちらの心の持ちようで変わってくるともいえる。

 

佐々木氏の考え方のエッセンスともいえるこの「まえがき」をあげてみる。

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〇はじめに

お母さん お父さんへ

どうか忘れないでください。

子育てでなにより大切なのは、

「子どもが喜ぶこと」をしてあげることです。

そして、そこのことを「自分自身の喜び」とすることです。

子どもは、かわいがられるからいい子になります。

かわいい子だから、かわいがるのではないのです。

いくら抱いても、いくら甘やかしてもいい。

たくさんの喜びと笑顔を親ともにした子どもは

やがて、人の悲しみをも知ることができるようになります。

誰とでも喜びと悲しみを分かち合える人に成長するでしょう。

これは人間が生きていくうえで、

もっとも大切な、そして素晴らしい力です。

※佐々木正美 『子育てのきほん』(ポプラ社、2019)

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 他にも考えさせられることばがある。

・子どもを幸せにするために、いちばん大切なことは何ですか、と聞かれたら、私はこう答えます。それは、自分のことを好きな子どもに育てることです。「自分っていいな」と思いながら毎日を生きている子どもは、それだけで幸せです。

・わが子に、「生まれてきてくれてありがとうね」というメッセージを、日々いろいろなかたちで伝えてほしいと思います。あなたでよかったーこういうメッセージを伝えることは、保護者として最も重要な役割ではないでしょうか。この気持ちを上手に伝えたら、どんな子だっていい子に育ちます

 

 佐々木氏は〈自尊心が育っていなかったら、他者を尊重することなど絶対にできないのです〉と子どもにとってもっとも大切なことは、自分を愛する心をはぐくむことだとしている。

 ※佐々木正美『子どもへのまなざし完』(福音館、2011)などから参照。

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 これは吉野弘の詩『奈々子へ』の次の言葉も想いだす

〈-------お父さんが/お前にあげたいものは/健康と/自分を愛する心だ

ひとが/ひとでなくなるのは/自分を愛することをやめるときだ

自分を愛することをやめるとき/ひとは/他人を愛することをやめ/

世界を見失ってしまう

自分があるとき/他人があり/世界がある。……〉

 

 ひとが成熟するとは、子どもだけでなく、「自分を愛する心」からはじまると思っている。

 明日から入院する。身体がどのようになっているかはわからないが、自分自身を慈しむ心に水やりをしていきたいと考えている。

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〇奈々子に  吉野弘

赤い林檎の頬をして

眠っている 奈々子

 

お前のお母さんの頬の赤さは

そっくり

奈々子の頬にいってしまって

ひところのお母さんの

つややかな頬は少し青ざめた

お父さんにもちょっと

酸っぱい思いがふえた

 

唐突だが

奈々子

お父さんは お前に

多くを期待しないだろう

ひとが

ほかからの期待に応えようとして

どんなに

自分を駄目にしてしまうか

お父さんは

はっきり

知ってしまったから

 

お父さんが

お前にあげたいものは

健康と

自分を愛する心だ

 

ひとが

ひとでなくなるのは

自分を愛することをやめるときだ

 

自分を愛することをやめるとき

ひとは

他人を愛することをやめ

世界を見失ってしまう

 

自分があるとき

他人があり

世界がある

 

お父さんにも

お母さんにも

酸っぱい苦労が増えた

苦労は

今は

お前にあげられない

 

お前にあげたいものは

香りのよい健康と

かちとるにむづかしく

はぐくむにむづかしい

自分を愛する心だ

(詩集『消息』1957年より)