日々彦「ひこばえの記」

日々の出来事、人との交流や風景のなかに、自然と人生の機微を見いだせてゆけたら、と思う。※日々彦通信から一部移行。

◎母性と父性から「叱る」について思うこと(佐々木正美に触れながら)

 孫は好奇心旺盛で、背も高くなっていろいろものに手を出すようになる。ときには壊すようなことも起こり、危険なこともあり、「叱る」ことも出てくるようになる。

 

〇「叱る」という働きは、大きく二面性があると思う。
・相手のこと、成長・成熟を願って、感極まって発する思いからのもの。また、言葉にならず思わず手を出してしまうこともあるだろう。これはある種の愛情表現だと思う。

 心ある人に叱ってもらったり、あるいは叩かれたりしながら、自分は成長してきたなと思える人も少なからずいるのではないだろうか。

 

 歌人・河野裕子さんの次の短歌は、家族への愛情にまっすぐつながっていると思う。
「君を打ち子を打ち灼けるごとき掌よざんざんばらんと髪とき眠る(『桜森』)

 叱った自分に対し強列な後味の悪さを残す。つぶさに見てみないとわからないが、愛情につながっていることが多いのでは。

 

 次のようなエピソードもある。永田和宏と大学卒業後結婚。歌人夫婦として歩み始める。当時永田は大学の研究員でしたが無給だ。そのため夜遅くまで塾講師を務めながら多忙な日々を送っている。一方河野は、家事と子育てを一手に引き受け永田を支え続ける。

「食えと言い寝よと急かせてこの日頃妻元気なり吾をよく叱る」(永田和宏)

「しっかりと飯を食はせて陽にあてしふとんにくるみて寝かす仕合せ」(河野裕子)

 

・一方、相手を思い通りに動かそうとする意欲から発するもの。
 大人が子供に、上司が部下に、指導的立場や経験豊富な人など、その人のことを思うがゆえに叱る場合。これは思い通りにしたいのか、その人を思うがゆえか、分かり難いので、よほど自覚しなければならないが。

 

 紛らわしいのは、それで目が覚めたという場合もあり、受け取る人の心の状態も絡んでくる。その時点では嫌なものとして残ったが、後から振り返って、発した人の思いはともかく、よかった、よく言ってくれたという思いを抱くこともある。

  

「率直にその人のことを思って」と「相手を思い通りに動かそうとする」両方の間のグレーゾーンの領域がほとんどだろう。どちらであるかは曖昧であるが、いずれにしても、そこに「怒り」をどの程度伴っているかどうかが一つの目安になる。

 

 問題外なのは、一つの組織として、周りを組織の思い描くように、構成員を思い通りに動かそうとする組織ぐるみの思いが気風になって、影響力の強いリーダー、それに賛同する人たちに支えられて、組織ぐるみのパラハラがある。

 

〇子育てについて、今の私は児童精神科医・佐々木正美の見解をよく参照する。
「母性と父性について考える」の中で、直接「叱る」をテーマにしているわけではないが、子どもを育てていくにあたっての大事なことが述べられていると思う。

 

 佐々木氏は「母性と父性」を次のように述べる。
・母性:「無条件の保護」=やさしさ、無償の愛。
・父性:「条件つきの愛情」=厳しさ
〈子どもにとっては、ありのままのその子を受け入れ、認め、そして絶対的なやすらぎを与える力が母性です。保護してくれる存在。これに対して、父性とは、これはしてはいけない、こうしなければならないというルールやマナーを教える力です。つまり、しつけというのは父性の部分でしているものなのです。
母性はなんでも許してしまいますが、父性は許されないことを示し、制限する。いずれにしても、両方をバランスよく受け取りながら、人は成長し、人格を形成していくのです。〉

 

・母性的なものと父性的なものというのは、男性女性に関係なく、だれもがもっているものだということです。女性のなかに父性はありますし、男性のなかにも母性はあります。

・母性が強すぎると、甘えん坊で自立できない人間が育つ。
・父性が強すぎると、幼児性と攻撃性が出てくる。

 

〈父性的なものを伝えるには、こうした母性的なものが子どもたちのなかに十分伝わっていることが重要です。母性によって、「自分は自分でいいんだ」という自尊心がしっかり育っていないのに、しつけや厳しい教育的なことをいっても伝わりません。子どもはうまく育っていけません。〉

 

・母性的なものが伝わったあとに、父性的なものが伝わる。

〈このことをしっかりと知っておいていただきたいと思います。
多くの方が、ここを勘ちがいして子どもを育てているように見えます。子どもをしつけたり、教育したりするとき、私たちはしばしば父性的なものが先に立ってしまいがちです。子どもが何か悪いことをしたときに、「そんなことをしてはいけない」と叱ります。しかし、それでは子どもには通じないのです。母性が十分に伝わっていない子どもに、いくら父性的な部分でしつけようとしてもうまくいきません。〉

 

・まず、子どもを無条件に受け入れ希望を満たしてあげる。厳しさやルールを教えるのは、そのあとです。

 

参照:佐々木正美著『抱きしめよう、わが子のぜんぶ―思春期に向けて、いちばん大切なこと』(大和出版、2006)

〇母性に包まれて父性らしさを発揮できることは、子どもを育てていくときに肝要ではあるが、青年期、その後も続く大切なことだと思っている。