日々彦「ひこばえの記」

日々の出来事、人との交流や風景のなかに、自然と人生の機微を見いだせてゆけたら、と思う。※日々彦通信から一部移行。

◎雑草考(稲垣栄洋 著『身近な雑草の愉快な生きかた』などより)

〇ブログ「◎たまゆらの記⑭」で稲垣栄洋 著『身近な雑草の愉快な生きかた』を紹介した。この項で雑草についてもう少し触れる。

 

 雑草とは、人間の生活範囲に人間の意図にかかわらず自然に繁殖する植物のことである。

 

 研究者たちによってある程度解明されているとは思うが、名前やその特徴も定かでない、草もまだまだあるだろう。

 

 人間による石器時代からの自然の大破壊の進行に対して、植物の側からも、破壊された新しい環境にうまく適合するものが進化し現れてきた。

 

 昔から、人は野生植物の中から有用なものを探し出し育てるようになる。

 選ばれたものは作物へ。選ばれなかった草は、除去されながらも耕作の間隙をぬっては生き続ける。それが人から見れば雑草となる。

 

「逆境は人を育て知恵を授ける」といわれるが、今ある雑草は幾多の困難を乗り越えて生存の知恵を獲得し、驚異的な進化を遂げてきた。

 

 それらは、種が落ちた場所が、日陰であれ、瘦せ地であれ、そこに根を伸ばして生きていく。日陰なら日陰、痩せ地なら痩せ地でも生きてゆけるように、夫々が弛まず進化・変化を続けて「今を生きていく」。

 

 他家受粉が叶わなければ自家受粉を行い、自家受粉も叶わなければ自生する。この強かさ、しなやかさ、順応性を覚える。

 

 雑草に限らず、生き物は他の生き物を食べたり、その恩恵に依存したりしてしか生きることができないようにできている. その連鎖の出発点は, 植物が太陽のエネルギーを有機物に変えて蓄えてくれる炭酸同化作用(光合成)で支えられている. 私たちはみな太陽からくるエネルギーのもとで, 互いに生命をやりとりしながら共生している. 必然的に人間も相手が植物であれ動物であれ, 生き物の生命をいただいて生きている。

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 ブログ「◎たまゆらの記⑭」で紹介していない各雑草の特徴を『身近な雑草の愉快な生きかた』からいくつか簡潔に見ていく。

 

【スベリヒユ(滑莧)】ふつうの植物は太陽の出ている昼間に光合成をおこなう。しかし乾燥地帯で昼間に気孔をあけると貴重な水分がどんどん蒸発してしまうため、スベリヒユはCAMとよばれる特別な光合成をおこなう。すなわち夜気孔をひらいて二酸化炭素を取り込み、昼間それを原料に光合成をおこなう。サボテンもCAMシステムを採用している。

 

【コニシキソウ(小錦草)】踏まれても踏まれても立ちあがる雑草は、わざと踏まれるような場所を選ぶことによって生存をはかる植物もいる。ほかの雑草が茂ることがないから日光も確保できるし、コニシキソウは、最初から地面にひれ伏して生育しているから、踏まれても折れたり、倒れたりすることはないのだ。

 

【ツユクサ(露草)】ツユクサの魅力は何といってもその色にある。これだけ鮮やかな青い花は少ない。昔はこの花の汁で衣類を染めたという。冒頭の歌(朝(アシタ)咲き夕べは消ぬるつきくさの消ぬべき恋も我はするかも)のように古名を「つきくさ」と呼ぶのは色が付く「付き草」の意味なのだ。

 

【マツヨイグサ(待宵草)】夕暮れになるといっせいに咲きだし、パラボラアンテナのように折り畳まれた花を、肉眼でもわかるスピードで連続写真のように開くのだそうだ。マツヨイグサが夜開くのは鑑賞者をうっとりさせるためではなく、花の数の多い昼間を避け、花粉を運んでくれる昆虫を確保するためだと著者は言う。

 

【エノコログサ(狗尾草)】猫じゃらしと呼ばれている。通常の光合成を行う「C3」回路とは別に、「C4」回路という高性能の光合成システムを持っている。「C4」回路は葉でなく茎の中にあって、CO2を濃縮して「C3」回路に送り込む。ターボエンジンの仕組みで、光合成効率が2倍になる。イネ科の雑草に多く見られるこの「C4」回路は、乾燥にも平気で勢い良く生い茂る。しかしこのエンジンは、特別に高エネルギーを必要とする。真夏の日光と高温下では好調だが、冬場にはやや弱いようだ。

 

【ハコベ(繁縷)】「せり なづな ごぎょう はこべら ほとけのざ すずな すずしろ これぞ七草」むかしはハコベラといった。ハビコルの語源説があるほどよく増える。茎には根元にむかって無数の毛が生えている。雨の少ない冬場でもこの細かい毛が、植物体についた水滴を根元に運ぶのだ。繁殖の秘訣はこれだけではなくいくつもあるのだが、もうひとつ。ハコベの花びらは10枚あるように見えてじつは5枚しかない。1つの花びらが付け根で2つに分かれている。花が咲くのは虫を呼び、花粉を運んでもらうためである。虫に気づいてもらうためには目立つことが必要だ。だから、花びらの数を二倍に見せているのである。さらに咲き終わった花は下を向き種子が熟すまで風雨を避ける(下を向くのはほかのまだ受粉していない花を目立たせるためでもある)。やがて種子を落とすころになると、すこしでも種子を遠くへ散布するためにふたたび茎を持ち上げて上向きになる。植物には動かないイメージがあるが、ハコベはこれだけダイナミックな上下運動を人知れず行なっているのである。

 

【コオニユリ(小鬼百合)】ユリは花をうつむかせて蜜を吸いにくくし、雄しべや雌しべをうんとのばして、蝶が蜜を吸おうとすればかならず体に花粉がつくよう工夫した。ウルチ米、クリ、クルミなど重要なでんぷん源は「ウリ」という音をふくんでいる。ユリの球根も同じくでんぷんをたっぷり含んでうまい。コオニユリはイノシシなどから球根を守るために、球根の上下に根を張った。上根からは水や養分を吸収する。下根は別名を牽引根という。根が地中深く張った後、縮んで球根を土の中に引っ張り込む。そうして、容易に掘られないように球根を地中深く潜伏させていくのである。

 

【スベリヒユ(滑?)】古名を伊波為都良(イハイツル)といい、お祝いのとき軒先に掛けられたという。いつまでも緑が保たれることから、その強い生命力がお祝いのシンボルとなったのだ。たしかにスベリヒユは高温乾燥にめっぽう強い。ふつうの植物は、太陽の出ている昼間に光合成をおこなう。しかし乾燥地帯で昼間に気孔をあけると貴重な水分がどんどん蒸発してしまうため、スベリヒユはCAMとよばれる特別な光合成をおこなう。すなわち夜気孔をひらいて二酸化炭素を取り込み、昼間それを原料に光合成をおこなうのだ。サボテンもCAMシステムを採用している。

 

【ウキクサ(浮草)】葉っぱ1、2枚だけの単純きわまりない姿は、葉と茎を一体化させた「葉状体」と呼ばれるもので、空気を多く含んでおり、表面には細かい毛が無数に生えていて水をはじく。さらにそこから生えた根は錨のような働きで体を安定させている。このような念の入った工夫のおかげでウキクサがひっくり返るようなことはめったに起こらない。夏には100日で400万倍にも増えるといわれるほどの増殖力をもつウキクサも、水面が凍ってはどうにもならない。そこで冬の訪れをまえにしたウキクサは、越冬用の芽を作って水の底へ沈んで避難する。浮き草稼業などといいかげんなことのたとえに使われるウキクサだが、そのじつイヤミなくらい堅実な生きかたをしているやつなのだ。

 

【ヒメムカシヨモギ(姫昔蓬)】といわれてもどんな草だったか思いだせないが、イラストを見ると、あああれか、そこらじゅうにあるなと気づく。どんな植物も少しずつ葉の位置をずらしながら伸びていく。このずれ方は「葉序(ヨウジョ)」と呼ばれていて、どの程度の角度でずれるかは植物の種類によって決まっている。ヒメムカシヨモギは360度の8分の3、すなわち135度ずつずれる。《すべての葉が効率よく光を受けるためや、茎の強度のバランスを均一にするためであると説明されている。

 

【オナモミ(雄なもみ)】「なもみ」は「ひっかかる」という意味の「なずむ」に由来するとか。マジックテープ発明のヒントになったというこの「ひっつき虫」は、動物にくっついて遠方の見知らぬ土地に運ばれることをわきまえたうえで、実の中に大小2つの種を用意している。やや大きい種子は先発隊である。春になるが早いか芽を出す。まさに「先んずれば人を制す」だ。ところが、先発隊には、どんな危険が待ちかまえているかわからない。除草剤がまかれたり、耕されたりして全滅してしまう可能性もある。「急いては事を仕損じる」状況に陥ったときに備えて、遅れて芽を出すのが後発隊のやや小さい種子だ。

 

【マンジュシャゲ(曼珠沙華)】種子はなく球根だけで増えるというのに、なぜ全国津々浦々に分布するのか。救荒食として植えられたからだ。にもかかわらず死人花、幽霊花、捨て子花などと不吉な名をあたえられ、墓地周辺など、人が寄りつきにくいところに植えて、あれには毒がある、死人花だから掘ってはいけないと言い伝えてきたのは、大切に保存するためだったのだろうと著者は推理する。

 

【ススキ(薄)】茅葺きの屋根などというからてっきり茅という植物があるのだと思いこんでいたが、あれはススキだと書いてある。ビックリ。念のために『広辞苑』で「かや」を見ると「屋根を葺くのに用いる草本の総称。チガヤ・スゲ・ススキなど」とあった。ガラスの原料ケイ酸を蓄積しているススキは、コンクリートと同じぐらいの耐久力があるのだそうだ。稲を管理する田んぼがあるように、昔は村々には必ずといっていいほど、ススキを管理する「かや場」と呼ばれる場所があった。東京にある茅場町の地名はその名残である。

 

【アサガオ(朝顔)】山上憶良が秋の七草として詠んだ「萩の花 尾花 葛花 なでしこの花 女郎花(オミナエシ) また藤袴 朝貌(アサガオ)の花」のアサガオは、キキョウのことなのだそうだ。

 

参照・ブログ・日々彦「ひこばえの記」ー「◎たまゆらの記⑭」

 https://masahiko.hatenablog.com/entry/2022/07/31/000000

・独立行政法人農業環境技術研究所「農業と環境 NO74 (2006.6)」の本の紹介