日々彦「ひこばえの記」

日々の出来事、人との交流や風景のなかに、自然と人生の機微を見いだせてゆけたら、と思う。※日々彦通信から一部移行。

◎6月23日の沖縄『慰霊の日』と「平和の詩」

〇1965年に制定された沖縄の『慰霊の日』は沖縄戦などの戦没者を追悼する日。

 1945年6月23日に、旧日本軍の組織的な戦闘が終結した日に当たる。

 

 憲法九条の戦争放棄条項支持の力源は、人びとの戦争体験と思う。身近な家族、友人をなくし、二度の原爆を受け、殲滅に近いような沖縄をはじめ、空爆などによる大被害の体験から、誰が何と言おうと戦争はよくない、戦争を誘うような国家、言説は信じないと考え、感じる。そのような動かしがたい心が、戦後70年以上の不戦状態、平和状況を維持し、憲法9条を支えてきた。

 

 しかし、沖縄は敗戦後も米国の統治下に置かれ、日本政府の行政権は及ばなかった。その後の冷戦、朝鮮戦争などが続き、米国の傘のもと外部からの攻撃に対する防衛最前線となっている。1971年の沖縄返還協定による返還後も沖縄の基地化は現在も続いている。

 

 復帰後、来年で50年になるが、米軍基地化の状況はほとんど変わらない。

 憲法九条は、沖縄の基地化により可能となってきたことを押さえておく必要がある。

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 今年(2021年)の沖縄県糸満市の平和祈念公園での「沖縄全戦没者追悼式」では、宮古島市立西辺中学校2年の上原美春さん(13)の、平和の詩「みるく世の謳」の朗読がとても印象に残った。

 

 76年前の悲劇を振り返り、「みるく世(ゆ)ぬなうらば世(ゆ)や直(なう)れ(平和な世がやってきて、みんなの暮らしが良くなりますように)」と平和への願いを読み上げた。

 

 内容はむろん、堂々としたたたずまい、口調、顔の表情などに惹きつれられ、感銘した。

 

 2018年の自作の「平和の詩」を披露した浦添市立港川中学校3年生の相良倫子さんの朗読はかなり話題になった記憶がある。

 

 今年度の「平和の詩」は沖縄県内の小中高生ら計1500作品から選ばれたそうだ。

 

 この主題で書くことで、思いが定着したり膨らんだりすることもあり、選ばれた作品に限らず、このような企画で連綿と若い人に語り繋げられていくことは望ましいと思う。

 

 沖縄タイムスによれば、ヤフーとの共同アンケートで、沖縄『慰霊の日』を全国75.5%の人たちが知らなかったという。

 

 慰霊の日を元々知っていたかどうかは人から直接話を聞いたり、学校教育で沖縄戦について学んだりした経験が関係していることがアンケート結果から読み取れたという。

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▼平和の詩「みるく世(ゆ)の謳(うた)」

 2021年度沖縄全戦没者追悼式 平和の詩 「みるく世の謳」全文

「みるく世」は、沖縄で「平和な世」を意味する。

 

〇『みるく世の謳(うた)』

宮古島市立西辺中学校二年 上原 美春

 

12歳

初めて命の芽吹きを見た。

生まれたばかりの姪は

小さな胸を上下させ

手足を一生懸命に動かし

瞳に湖を閉じ込めて

「おなかすいたよ」

「オムツを替えて」と

力一杯、声の限りに訴える

 

大きな泣き声をそっと抱き寄せられる今日は、

平和だと思う。

赤ちゃんの泣き声を

愛おしく思える今日は

穏やかであると思う。

 

その可愛らしい重みを胸に抱き、

6月の蒼天を仰いだ時

一面の青を分断するセスナにのって

私の思いは

76年の時を超えていく

 

この空はきっと覚えている

母の子守唄が空襲警報に消された出来事を

灯されたばかりの命が消されていく瞬間を

 

吹き抜けるこの風は覚えている

うちなーぐちを取り上げられた沖縄を

自らに混じった鉄の匂いを

 

踏みしめるこの土は覚えている

まだ幼さの残る手に、銃を握らされた少年がいた事を

おかえりを聞くことなく散った父の最後の叫びを

 

私は知っている

礎を撫でる皺の手が

何度も拭ってきた涙

 

あなたは知っている

あれは現実だったこと

煌びやかなサンゴ礁の底に

深く沈められつつある

悲しみが存在することを

 

凛と立つガジュマルが言う

忘れるな、本当にあったのだ

暗くしめった壕の中が

憎しみで満たされた日が

本当にあったのだ

漆黒の空

屍を避けて逃げた日が

本当にあったのだ

血色の海

いくつもの生きるべき命の

大きな鼓動が

岩を打つ波にかき消され

万歳と投げ打たれた日が

本当にあったのだと

 

6月を彩る月桃が揺蕩(たゆた)う

忘れないで、犠牲になっていい命など

あって良かったはずがない事を

忘れないで、壊すのは、簡単だという事を

もろく、危うく、だからこそ守るべき

この暮らしを

 

忘れないで

誰もが平和を祈っていた事を

どうか忘れないで

生きることの喜び

あなたは生かされているのよと

 

いま摩文仁の丘に立ち

私は歌いたい

澄んだ酸素を肺いっぱいにとりこみ

今日生きている喜びを震える声帯に感じて

決意の声高らかに

 

みるく世ぬなうらば世や直れ

 

平和な世界は私たちがつくるのだ

 

共に立つあなたに

感じて欲しい

滾(たぎ)る血潮に流れる先人の想い

 

共に立つあなたと

歌いたい

蒼穹(そうきゅう)へ響く癒しの歌

そよぐ島風にのせて

歌いたい

平和な未来へ届く魂の歌

 

私たちは忘れないこと

あの日の出来事を伝え続けること

繰り返さないこと

命の限り生きること

決意の歌を

歌いたい

 

いま摩文仁の丘に立ち

あの真太陽まで届けと祈る

みるく世ぬなうらば世や直れ

平和な世がやってくる

この世はきっと良くなっていくと

繋がれ続けてきたバトン

素晴らしい未来へと

信じ手渡されたバトン

生きとし生けるすべての尊い命のバトン

 

今、私たちの中にある

 

暗黒の過去を溶かすことなく

あの過ちに再び身を投じることなく

繋ぎ続けたい

 

みるく世を創るのはここにいるわたし達だ

(県平和祈念資料館提供)

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▼平和の詩『生きる』

 2018年度沖縄全戦没者追悼式 平和の詩『生きる』全文

 

〇『生きる』

 沖縄県浦添市立港川中学3年 相良倫子

 

私は、生きている。

マントルの熱を伝える大地を踏みしめ、

心地よい湿気を孕んだ風を全身に受け、

草の匂いを鼻孔に感じ、

遠くから聞こえてくる潮騒に耳を傾けて。

 

私は今、生きている。

私の生きるこの島は、

何と美しい島だろう。

 

青く輝く海、

岩に打ち寄せしぶきを上げて光る波、

山羊の嘶き、

小川のせせらぎ、

畑に続く小道、

萌え出づる山の緑、

優しい三線の響き、

照りつける太陽の光。

私はなんと美しい島に、

生まれ育ったのだろう。

 

ありったけの私の感覚器で、感受性で、

島を感じる。心がじわりと熱くなる。

私はこの瞬間を、生きている。

この瞬間の素晴らしさが

この瞬間の愛おしさが

今と言う安らぎとなり

私の中に広がりゆく。

 

たまらなく込み上げるこの気持ちを

どう表現しよう。

大切な今よ

かけがえのない今よ

私の生きる、この今よ。

 

七十三年前、

私の愛する島が、死の島と化したあの日。

小鳥のさえずりは、恐怖の悲鳴と変わった。

優しく響く三線は、爆撃の轟に消えた。

青く広がる大空は、鉄の雨に見えなくなった。

 

草の匂いは死臭で濁り、

光り輝いていた海の水面は、

戦艦で埋め尽くされた。

火炎放射器から吹き出す炎、幼子の泣き声、

燃えつくされた民家、火薬の匂い。

着弾に揺れる大地。血に染まった海。

魑魅魍魎の如く、姿を変えた人々。

阿鼻叫喚の壮絶な戦の記憶。

みんな、生きていたのだ。

私と何も変わらない、

懸命に生きる命だったのだ。

彼らの人生を、それぞれの未来を。

疑うことなく、思い描いていたんだ。

家族がいて、仲間がいて、恋人がいた。

仕事があった。生きがいがあった。

日々の小さな幸せを喜んだ。手をとり合って生きてきた、私と同じ、人間だった。

 

それなのに。

壊されて、奪われた。

生きた時代が違う。ただ、それだけで。

無辜の命を。あたり前に生きていた、あの日々を。

摩文仁の丘。眼下に広がる穏やかな海。

悲しくて、忘れることのできない、この島の全て。

私は手を強く握り、誓う。

奪われた命に想いを馳せて、

心から、誓う。

 

私が生きている限り、

こんなにもたくさんの命を犠牲にした戦争を、絶対に許さないことを。

もう二度と過去を未来にしないこと。

全ての人間が、国境を越え、人種を越え、宗教を越え、あらゆる利害を越えて、平和である世界を目指すこと。

生きる事、命を大切にできることを、

誰からも侵されない世界を創ること。

平和を創造する努力を、厭わないことを。

あなたも、感じるだろう。

この島の美しさを。

あなたも、知っているだろう。

この島の悲しみを。

 

そして、あなたも、

私と同じこの瞬間(とき)を

一緒に生きているのだ。

今を一緒に、生きているのだ。

だから、きっとわかるはずなんだ。

戦争の無意味さを。本当の平和を。

頭じゃなくて、その心で。

戦力という愚かな力を持つことで、

得られる平和など、本当は無いことを。

平和とは、あたり前に生きること。

その命を精一杯輝かせて生きることだということを。

私は、今を生きている。

みんなと一緒に。

 

そして、これからも生きていく。

一日一日を大切に。

平和を想って。平和を祈って。

なぜなら、未来は、

この瞬間の延長線上にあるからだ。

つまり、未来は、今なんだ。

大好きな、私の島。

誇り高き、みんなの島。

 

そして、この島に生きる、すべての命。

私と共に今を生きる、私の友。私の家族。

これからも、共に生きてゆこう。

この青に囲まれた美しい故郷から。

真の平和を発進しよう。

一人一人が立ち上がって、

みんなで未来を歩んでいこう。

摩文仁の丘の風に吹かれ、

私の命が鳴っている。

過去と現在、未来の共鳴。

鎮魂歌よ届け。悲しみの過去に。

命よ響け。生きゆく未来に。

私は今を、生きていく。

(引用元:毎日新聞)

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