日々彦「ひこばえの記」

日々の出来事、人との交流や風景のなかに、自然と人生の機微を見いだせてゆけたら、と思う。※日々彦通信から一部移行。

◎新型コロナウイルスとベーシックインカム(BI)

〇先日、国民に一律10万円を給付する「特別定額給付金」が届いた。

 現在無収入の私たちにとって、コロナによる収入的な影響はないにしても、一時的とはいえありがたくいただいた。

 

 息子は小さな町工場を一人で担っているが、単価の安い部品注文はそれなりに来るが、大口はないそうである。新型コロナウイルスの影響で金属加工の業界も厳しいとのこと。

 今後しばらく、この業界に限らず、医療、介護の現場などコロナの影響は厳しいだろう。

 

 人類史では、ウイルスなどさまざまな感染症と共存しながら続いてきたので、やがてそれなりに収束すると思うが、グローバル化、都市化、人口多寡などにより、被害がより大きくなっているような気がする。

 

 そのような中、ベーシックインカム(BI)の議論が盛んになってきた。

 ベーシックインカム(BI)とは、「すべての個人が、無条件で、生活に必要な所得への権利を持つ」という考え方。それは「人を分断したり序列化したりしないで、基本的な生活を保障する」ものであり、「人間として尊厳ある生活を営むためのお金を、水や空気と同じように、無条件ですべての個人に保障する」という構想。

 

 今の日本の社会では、「生きるために必要なお金」を得る方法は「賃労働をすること」にほぼ限られ、「働く=賃労働」と思われている社会のなかでは、賃労働の世界に入れない人たちや、家事、育児、家庭内介護など家庭内外の支払われない労働(アンペイドワーク)を担ってきた人たちの価値をきちんと評価しないできた。

 

 また、「働かざる者食うべからず」という表現にみられる労働観は、現状では十分な所得が得られない人たちや、労働市場に入れずにいる人たちを、働きが足りないのだから仕方がない、努力が足りないのは自己責任だと思わせてきた。BIは、この労働観にクサビを打ち込むものといえる。

 

 BIは、「働くこと」と「生きるために必要な所得(お金)を得ること」を切り離して考える。それは、「働かざる者食うべからず」との根強い労働観や「働いて稼ぐ」「働きに応じて支払われる」という見方を考え直させるともに、働かなければ生活が保障されない、という今の社会の仕組みを見直し、生存そのものを条件なしに保障するという発想で乗り越えようとするものといえる。

 

 〇「コロナ禍の今なぜ「ベーシックインカム論」なのか」

 週刊エコノミスト・トップストーリー(エコノミスト編集部2020年7月15日)に、次の記事がある。

 

〈・「選別給付」から「全員給付」へ

 ベーシックインカム(BI)はこれまで経済学者や社会学者らの間で提唱されてきたが、大きな議論に発展するきっかけとなったのが、今年に入って猛威を振るった新型コロナウイルスの感染拡大と、新型コロナ対策として政府が実施した一律10万円の特別定額給付金だ。

国内に住むすべての人を対象として、一律10万円の給付という前例のない措置に踏み切った。支援が必要な人を選別して給付してきたこれまでの常識を、いとも簡単に覆したのだ。

 

 財政緊縮派として知られ、政府が7月に新設した「新型コロナウイルス感染症対策分科会」のメンバーとなった経済学者、小林慶一郎・東京財団政策研究所研究主幹もその一人。「新型コロナのような危機はこれからも起こりうるが、緊急時には困っている人とそうでない人の区別が難しい。そうであれば、あらかじめ全員にお金を配ることで、保険を作っておくべきではないか」と強調する。

 

・「低所得世帯が増加」

 日本で今、盛んにBIが議論されるようになったより大きな背景には、新型コロナに加え、日本社会の構造変化があるだろう

 慶応義塾大学の井手英策教授は、医療や教育などのサービスを税財源で無償提供する「ベーシック・サービス」の提唱者で、現金を直接給付するBIには否定的な立場だが、BIが今、盛んに議論される背景について「皆、生活が苦しくなっている状況で、一部の困っている人だけを支援しようとすると社会の分断を招いてしまう。人々は誰もが普遍的に受益できる政策を求めている」と分析する。〉

 

 そして最後に次のことを提言する。

〈ただ、既存の社会保障制度に手を付けようとすれば、その影響は年金の受給者や被保険者などあまりに多くの人に及ぶ。同じBIの提唱者の中でも、現行の社会保障制度を存続させる意見から、すべて置き換える意見まで幅広く、隔たりは容易に埋まりそうにない。

 それでも歩みを進めようとBIの研究者や活動家らが18年12月、「日本ベーシックインカム学会」を設立した。樋口浩義会長は「これまで多くの研究者や活動家がBIを主張してきたが、考え方はバラバラで、一つにまとめるのが難しかった。中立的な組織を設け、意見交換を重ねる必要がある」と話す。

 BIを求める素地が現在の日本で広がっているのは間違いない。BIの議論は日本の窮状を映す鏡でもあり、単なる「夢物語」では済ませられなくなっている。〉

 

https://mainichi.jp/premier/business/articles/20200714/biz/00m/020/012000c