日々彦「ひこばえの記」

日々の出来事、人との交流や風景のなかに、自然と人生の機微を見いだせてゆけたら、と思う。※日々彦通信から一部移行。

◎貧しい発想(岩崎航詩集『点滴ポール ~生き抜くという旗印』を読んで。①)

※この記事のもとは、2016年1月6日に発表した【岩崎航詩集『点滴ポール ~生き抜くという旗印』を読んで。】である。そこに今の時点で考えたことなどを付け加え、読売新聞のヨミドクターの岩永直子さんとのインタビューの発言を編集した。2回に分けて述べる。

 

 〇津久井やまゆり園」事件については、少なからずの人が、植松被告は経済的に役に立つかどうか、生産性があるかないかで、人を判断する一部の社会風潮が作り出した病だと指摘している。さらに、「内なる優生思想」に向き合う考えさせる論考もいくつかある。

 

 この項では岩崎航の詩「貧しい発想」に触発された私的な戸惑いについて述べる。

 ・岩崎航の詩「貧しい発想」

管をつけてまで

寝たきりになってまで

そこまでして生きていても  しかたないだろ?

という貧しい発想を押しつけるのは

やめてくれないか

管をつけると

寝たきりになると

生きているのがすまないような

世の中こそが

重い病に罹っている

(岩崎航詩集『点滴ポール ~生き抜くという旗印』)詩・エッセイ 岩崎航 写真 齋藤陽道 ナナクロ社。2013より)

 

 ここに来て、動くための基本的な歩くことが不如意になり、何か人と一緒に行動するとき、「足手まといにならないように」と意識がのぼるようになる。まだチラッと思う程度だが。

 

 私が90歳超えた義父と一緒に住みはじめた頃、義父は遠慮するようなものがあり、しばらく続いた。始めの頃、義父は、私に介助されるような場面では、必ず「すまないなー」と付け加えていたが、徐々にそれも言わなくなっていた。

 

 その頃から、いろいろ考えることが好きで、「こんなに歳とるのは初めての経験だからどう考えたらいいのか」などと、よく話をするようになっていた。その時分は寝たきりになっていて、意識はしっかりしていたが、「長生きし過ぎた」と、もらすことも度々あった。  

 

 私が重度心身障害者など対象の仕事をしていたこともあり、寝たきりの人のことなども話題に上るようになっていた。あるとき義父から、「よくそんなんで生きていられるんだな」というようなことを言われて、戸惑ったことがある。

 

 一時、徐々に少なくなっていたとはいえ、食事の量が極端に減ったことがあり、妻と「おかしいねー」と話を交わしたことがある。やがて、少量ではあるが元通りになっていった。できる限り好きなものを用意し、義父が「美味しいなー」というのは、妻の一つのやりがいになっていて、これについては死の間際まで続いたのではないかと思っている。だが、我慢強い義父の中では、実際のところ晩年どういう気持ちでいたのだろうか。

 

 私の中に、その貧しい発想法がクリアできているかどうかを見ていくと、活動先では、そのような思い方はなかったと思っているが、気にかかっているのは、母についてである。

 

 母は90歳過ぎてから、心身がかなり衰弱していて、実際によく接している兄や妹などには、見るに忍びないことも度々あったそうだ。母からは、「早くお父さんのところに行きたい」と、訪問したときに何度か聞いている。

 

 訪問するたびに、私にもその大変さが伝わってきて、いたたまれないような気持ちが増していった。母の死亡の連絡がきたときには、悲しい気持ちはあったが涙も出ないし、ある種、安堵するようなものもあった。(この辺りは何んとも表現できない)

 

 これはどういうことだったのだろうか、私が母のような状況になった時はどうなんだろうか。

「押しつけ」というのは、他からある以上に、自分の中にあるものだと思うので。

 

 貧しい発想法は、結局のところ、自分自身をも縛ることになり、押しつけることになるのではないだろうか。

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○岩崎航詩集『点滴ポール ~生き抜くという旗印』から

「五行詩」

嗚呼 僕も

生きているんだ

青空の

真っただ中に

溶け込んでいる

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誰もがある

いのちの奥底の

燠火(おきび)は吹き消せない

消えたと思うのは

こころの 錯覚

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どんな

微細な光をも

捉える

眼(まなこ)を養うための

くらやみ

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※岩崎 航:1976年、仙台市生まれ。本名は岩崎稔。3歳で発症、翌年進行性筋ジストロフィーと診断される。現在は胃ろうと人工呼吸器を使用し、仙台市内の自宅で両親と暮らす。2004年秋から、五行歌形式での詩作を始め、06年、『五行歌集 青の航』を自主制作。13年、『点滴ポール 生き抜くという旗印』(ナナロク社)を全国出版する。