日々彦「ひこばえの記」

日々の出来事、人との交流や風景のなかに、自然と人生の機微を見いだせてゆけたら、と思う。※日々彦通信から一部移行。

◎高次脳機能障がい支援の『アイズ』と口笛カフェについて

〇高次脳機能障害支援の『アイズ』の口笛カフェに参加して

 以前にT君から「川の流れのように」の口笛演奏記録を送ってもらったとき、いいものだなと思ったことがあります。

 その後、『いっちゃんはビリビリマン』(「高次脳機能障がい」なオットと私の日々)を読んで、口笛のもつ可能性を覚え、同時に、【〈障がい者〉と〈健常者>の垣根をなくす〉との理念のもとに高次脳機能障がい支援の『アイズ』の動きに共鳴するものがありました。

 

 この11月の入院中にリハビリ担当の言語聴覚士と『いっちゃんはビリビリマン』の本の話をしたとき、脊髄小脳変性症の嚥下障害や構音障害にも口笛はいいと聞いて、それ以来少しずつ練習をしています。

 

 ところが気まぐれ的にやっているので、出るときと出ないことの繰り返しで、とても演奏にはならないです。そこで『アイズ』の口笛カフェに参加できないかと問い合わせしたところ、いいですよということで参加しました。

 

 自分の今の状態はろれつがまわりづらく、人から何を言っているのかよくわからないと聞き返されることが増えてきています。随時電話のやりとりをしている友人からも半分はわからないと言われています。そういうことが続いてくると、口無精に成りがちで、電話に関しては受けるのもかけるのも緊張する現状です。

 

 だからといって、引っ込むことはしたくないこともあり、このような場があることはありがたいし、参加したいと思いました。

 

 妻と参加して、皆さん気さくな方々ばかりで、口笛は巧みで上手です。

 参加者は私たちも含めて10人余、途中でT君も加わり、美味しいケーキやチョコレートを食べながら各自の口笛鑑賞。

 11月に生まれた孫のことや81歳の誕生日を迎えて後期どころか末期高齢者ですとの話もあり、和気あいあいと、各自の演奏について温かい批評をする2時間。

 

 私と同時に練習を始めた妻も口笛を披露、なかなかのもので、皆が感心していました。私もまったくといって音が出ないが、少しでた音に「もうすぐいけますよ」との励ましをいただく。

このように面と向かって聞くのははじめてで、聞くだけでも楽しかったです。

お土産に白井いさおさんの口笛CDをいただきました。

 

〇高次脳機能障がい支援の『アイズ』について

 一般社団法人「アイズ」のことは友人に薦められて白井京子著『いっちゃんはビリビリマン』(「高次脳機能障がい」なオットと私の日々)を読んだことから知りました。

 

 本書は、2006年50歳のとき脳梗塞で入院した「いっちゃん」。退院後職場に復帰したが、周りの人はうつ状態を感じ、心の病気ではないかと思っていたが、実は脳の病気で緊急入院し、それを克服したが、今度は重度の高次脳機能障がいという症状が残り、その後の介護生活を支える、妻および家族の心温まる経過、失意や後悔を含めきめ細かく描かれていきます。 また、高次脳機能障がい者などに携わっている専門家や友人たちの支援なども心に響くものがあります。

 

 私にとって特に印象に残る二つの記録があります。

〈第三章 高次脳機能障がいな日々〉の「皆で、わけようよ」の節で、息子さんが「ママ、皆で分けようよ」「ママはパパがかわいそうかわいそうといって、何もかもパパ中心に生活しているけれど、側で見ていて、僕はパパよりママがかわいそうや。このままやったら、必ず歪みがくるよ。僕も少しもらうし、妹にも渡して、パパ自身にも少しがんばってもらって、ママが一人でしようと思うことを皆で分けよう」との記録が心に響きました。

 

〈第四章 口笛、楽しい!〉のなかで、10年ほどの症状を抱えたいっちゃんとの生活と教師という仕事のなかで疲弊していた奥さんが、ためいきをついていたときに、あまり言葉が出なくなっていたいっちゃんが、いきなり『知床領場』を口笛で吹いたのです。それがすごくよくて心がじわーんとした京子さんは次のことを思う。

 「このひと、口笛で私を励まそうとしている」

 私が口笛を聞いて号泣していると、いっちゃんは急に立ち上がり私の肩をポンポンと叩いたのです。支えられているのは私だと気づいた瞬間だそうです。

 

 このことから次のことを思いました。

 どのような状態になっても、自分のやれることを精一杯やろうとする意思。もう一つは「分かち合い」でものごとは気持ちよく進んでいくことです。

 

 以前私が寝たきり高齢者や重度障がい者に介護で関わっているとき、大変なのは入浴や排泄で抱き起すことです。その時に、まったく任せきりの体勢の人と、ほとんど動けないのになんとか自らも加わろうとする人との異い、感じる重さがまったくといっていいほど違うのです。こちらの気持ちもあるでしょうが。

 

 ひとにとって能動的であるというのは、よく動くというより、そのもとの態度にあるのではないかと思っています。

 

 この書の読後感を爽やかにしているのは、「分かち合い」の響きが基底音として鳴っていることです。その「分かち合い」から、「アイズ」の活動につながり、口笛プロジェクトSの活動、白井いさおさんの口笛CD作成に拡がりました。

 

 その趣旨、経緯などは、HP『アイズ』で楽しく伝わってきます。

 https://project-eyes.com/ 

 ※参照:『いっちゃんは、ビリビリマン ー「高次脳機能障がい」なオットと私の日々ー』白井 京子 (著), 浅川 哲二 (イラスト)、星湖舎 、2019。

 

 なお、本ブログ11月22日に『いっちゃんはビリビリマン』の感想文を掲載しています。

http://masahiko.hatenablog.com/entry/2019/11/22/000000