〇本書を読んで次のことを思った。
・「何をすると子どもがダメになるのか」ではなく、「どのような関わり方が子どもの幸せにつながるのか」という視点から、科学的に探究を重ねてきた。
・質の良い親子関係、人間関係が子どもの健康、幸福度を高める。
・「統制型」、操作的ではなく、一人ひとりの子どもを尊重し信頼しその子が持っている自律性が発揮できる「支援型」で寄り添うことが大切。
・「やればできる」というその子の自己効力感を大事にする。
・自分が自分らしく生き、相手が相手らしく生きることが多様性を尊重する社会になる。
・彼女の子ども時代や二人の子育てなど、いくつかの失敗を重ね、必ずしも順調ではなかっただろう体験からの裏付けに、ポジティブ心理学とウェルビーイングの最新の研究成果への取り組みがあり、考察に厚みを増したと思われる。
・多くの仲間、研究者に恵まれたことを通じて、見識が広がり、感受性が豊かになり、人間としての深みを増していったと思う。
・彼女の活動の底に、少しでも幸せな家族が増えることを願って、子どもたちが輝いて生きていける工夫に焦点が当たったのが今回の刊行につながったのではないだろうか。
・ご自分の体験やこれまでの研究成果のエビデンスを踏まえて、具体的な工夫の仕方を提示していることが、本書の大きな魅力になっている。
あとがきに「私はこの本に役立つことを書いたつもりですが、正しいことを書いたわけではありません。正解はどこかに一つあるものではなく、それぞれの中にあるものです。」とあり、研究者として真っ当のことと思うが、きちんと述べていることに強い印象が残った。
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ポジティブ心理学は、「幸福になるにはどうすればいいのか」を科学的に探究するもので、個人や社会を繁栄させるような強みや長所を研究する心理学の一分野である。精神疾患を治すことよりも、通常の人生をより充実したものにするための研究がなされている。また、個人の持っているレジリエンス(回復力。再起力。逆境に直面しても力強く成長できる資質)などに注目した。
現代のポジティブ心理学を提唱したマーティン・セリグマンは、それまでの心理学が、精神疾患や心の病気を治すための努力はしてきたが、「どうすればもっと幸福になれるか」については、あまり研究してこなかったことに気がつき、1998年に、「心理学は人間の弱みばかりでなく、人間の良いところや人徳(virtue)を研究する学問でもあり、すでに主要な心理学的理論はそのような補強を行う方向に変貌しつつある」と指摘。こうした流れを受けて心理学研究の中で注目されるテーマになっていった。
ウェルビーイングは、現代のソーシャルサービスの達成目標として、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的にわたる全人的に良好な状態にあることを意味する概念。1946年の世界保健機関(WHO)憲章草案において、「健康」を定義する記述の中で「良好な状態(well‐being)」として用いられた。
著者の始めたウェルビーイング心理教育は「幸せに関する科学的知見を人生に活かす」との理念のもとで、〈 「人や社会を幸せに導く、科学的根拠に基づいた理論と方法」を学び、実践し、自分の人生を自分で創造できる人たちを増やすこと。ポジティブ心理学をはじめとするエビデンスに基づいた理論やスキルを分かりやすく伝え、毎日の生活に取り入れやすい形で学ぶことのできる生涯教育の場を提供する。〉とある
その時代背景として次のように述べる。
〈様々な情報が交錯するなかで、自らの幸せを創造することにおいても、子育てや対人関係の改善においても、「本当に役に立つもの」を「自ら探す」ことができる時代になっています。そのような中で、物質的な豊かさや社会的地位が必ずしも幸せをもたらさないということが、徐々に理解されつつあります。また、誰かの成功体験を模倣するのではなく、「科学的な」根拠(エビデンス)のある理論やスキルが求められていると感じます。
ウェルビーイング心理教育アカデミー(以下、AWEと表記)は、そのような時代の流れの中にあって、「科学で裏付けられた人や社会を幸せにする方法を学び続けられる身近な場所」を提供するために設立されました。〉
参照https://wellbeing-education.org/about/
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「幸せ」や「健康」という極めて主観的な感情を科学的にとらえることは、かなり難しいとされてきた。科学のルールとして「相関関係は因果関係を含意しない」がある。因果関係を明確に示すデータや再現性がないと「科学的に立証された事実」とは認められない。
だが人生の目的は幸せであるという思想家はいて、多くの人にとっても関心の高いものであり、一部の研究者の大きな目標課題でもあった。近来の分野を超えた研究者、科学者などの研究成果で、幸福や健康についての知見が高まってきたし、そのことを専門に考察する人、分野も増え、著者もその一人であろう。
どこまでも相関関係ではあるが、一人ひとりの個別性に留意しつつ、ある程度の傾向の考察はサイエンスとして確立してきているのではないだろうか。
彼女の子ども時代は、わたしの子どもたちと同じ学園で育った。その頃そこは極度の統制型であり、私も関わりのあるところでもあり、その子たちが、大人になりどのような子育てをしていくのかに、関心を寄せている。
この書をとおして、昨秋出産した娘夫婦といろいろな話をするのを楽しみにしている。また、子育てに限らず、ひとりの人間としてわきまえていくことが、書かれていると思うし、引き続き考えていきたいと思っている。
※松村 亜里 (著)『世界に通用する子どもの育て方 』(WAVE出版 (2019/3/6)