日々彦「ひこばえの記」

日々の出来事、人との交流や風景のなかに、自然と人生の機微を見いだせてゆけたら、と思う。※日々彦通信から一部移行。

◎オートファジーとファスティング

〇近年、ファスティングのように一定期間断食を行うことで、細胞内でオートファジーが活性化していることに、その関連の専門家、実際家の間では注目されている。

 水島昇『細胞が自分を食べる オートファジーの謎』を参照しながらまとめてみる。

 

▼細胞とタンパク質

 私たちの体を構成している生命の最小単位である細胞内は、汚れがたまるなど徐々に悪くなっていく。そのため、細胞内を常に新鮮な状態に保つべく、汚れを処理したり、不要になったものをリサイクルしたり、細胞そのものを入れ替えたりする。

 短期間で人の体のほとんどの細胞は新しいものと入れ替わっているといわれている。

(※細胞の寿命:白血球、腸の上皮細胞・3~5日、皮膚・1ヶ月、赤血球・4か月、肝・一年半、骨・2~10年、神経細胞・ほぼ一生)

 なぜ入れ替える必要があるか? 基本的には、①新鮮さを保つため、②栄養を獲得するため、➂変化するため、である。

 

 細胞内は、タンパク質はもっとも量が多く、ヒトでは2万種類以上のタンパク質が作られている。生体内の化学反応の制御(酵素)、酸素や栄養素の運搬、ホルモンやそれに対する反応、筋肉の収縮、細胞の固定や接着、微生物などからの防御(抗体)、細胞の構造の保持など、実に様々な働きをしており、これこそが生命活動の基本となっている。そして、私たちは生きるために、毎日大量のタンパク質を合成している。

 実は、食事を通して摂取することができる、3倍もの量のタンパク質を毎日、分解しては、また新しく合成している。

 このすべてに、オートファジーが重要な働きをしている。

 

▼オートファジーの役割

 オートファジ(自食作用)とは私たちの細胞の中で起こっている分解作用である。細胞内のタンパク質の一部を少しずつ、ときには激しく分解し(食べる)、新たにリサイクルする作用を指す。

 

・オートファジーの基本的役割は飢餓に耐えることである。飢餓は生物の最大のストレスであり、体の中に蓄えられたタンパク質をアミノ酸まで分解し、飢餓状態の栄養補給に重要な役割を果たしている。

・発生の過程で細胞内を大規模に入れ替えないといけないようなときにも起こる。

・細胞内をきれいにする浄化作用を持っている。

・抗原提示という免疫を成立させるために必要な作用であることがわかりつつある。

・過激なオートファジーが起こると細胞にとってむしろ傷害をきたす可能性があるとも考えられている。

 

 このようにその役割は多岐にわたっている。これらが分かってきたのは最近のことである。大隅良典教授がノーベル生理医学賞を受賞したように、日本は最先端を行っているそうで、世界中から注目されている。さまざまな生命現象を語る上ではもはや不可欠らしいが、まだまだ検証、探求を重ねる必要があると思われる。

 細胞内をきれいにする浄化作用を持っていることや、タンパク質(アミノ酸)を食べ物として他の生物から取り続けることが不可欠な人にとって、それが絶たれた時に活性化するというオートファジーの作用を知ると、一定期間の断食の効果が望まれている所以でもあるが、その可能性を丁寧に探っていく必要があると思う。

 

 私の家族や知人などいろいろな方がファスティングをされていて、ほとんどの方がその効果を実感しているようだが、それぞれの反応はさまざまである。

 私の場合は、①毎日快便状態である、②血糖値が基準以下で安定している。➂内臓脂肪が1,5キロ減少したことで、自分でも驚いているが、ただちにファスティングだけに結び付けるのは慎重にしたいと思っている。

  

※水島昇 (著)『細胞が自分を食べる オートファジーの謎』 (PHPサイエンス・ワールド新書) 2016版  HP:水島研究室分子生物学分野

 専門研究者だけに限らず、各方面から評価の高いオートファジー関連の著書と知り、読んでみたが、分かりやすく、いろいろと示唆に富むものであった。

 

【参照資料】

※水島昇『細胞が自分を食べる オートファジーの謎』へのアマゾンのカスタマーレビューから

 投稿者・荒野の狼さん

〈私はオートファジーが関連しているとされるウイルス学、免疫学、神経学を研究している者ですが、現在、医学研究において注目を集めているこの分野を網羅した本を探しておりました。本書は、2011年9月に書かれた215ページからなり、数時間で通読できますが、内容は基礎から2011年に発表された最先端の知識まで書かれてあり、この一冊で、オートファジーに関する理解は、類書の(専門書も含めて)どれを読むよりも深まるといえます。この本は、まず、オートファジーの発見からの研究の発展の経緯が丁寧に書かれてあり、酵母での研究から、哺乳類のノックアウトマウス、蛍光物質のGFPを用いたオートファジーの同定方法が、研究者以外の一般の人でもわかるように、書かれています。たとえば、細胞内の構造物(リソソームなど)を豊富な図(電子顕微鏡写真なども含む)で解説しており、よくここまでわかりやすく基礎から解説していながら、大著にならずにまとめたられたかが不思議なほどです。網羅されてある分野は多岐にわたり、酵母、免疫学(抗原提示)、受精卵(母性効果の記述は秀逸)、ユビキチン・プロテアソーム系、細菌感染、パーキンソン病、腫瘍などでのオートファジーの果たしうる役割が、今まで明らかにされてきたことと、今後、期待の持てる内容(まだ確かではない部分)がはっきり分けられて書かれてあり、生命科学の専門家でも、学べる知識は多く(特に非専門分野での)、一般の人よりも、医学や植物学研究を専門とする第一線の研究者にこそ勧めたい一冊。特に発見からの経緯は、今後新しい知見が得られても、古くなることはなく、日本発信の医学研究の歴史の1ページとして重要。参考文献が21ページに、一度示されている他は、他に特に記載はないのは一般向けを意識してのことと大著になるのを憂慮してのことだろうが、各章末に主な参考文献をつけても大幅なページの増加にはならないので、改訂の際には、望みたいところ。〉