日々彦「ひこばえの記」

日々の出来事、人との交流や風景のなかに、自然と人生の機微を見いだせてゆけたら、と思う。※日々彦通信から一部移行。

◎日々彦「詩句ノート」星野富弘『愛、深き淵』など

〇星野富弘『愛、深き淵』より
 私は自分の足で歩いている頃、車椅子のひとを見て気の毒に思った。みてはいけないものをみてしまったような気持ちになったこともあった。私はなんと、ひとりよがりな高慢な気持ちを持っていたのだろう。
 車椅子に乗れたことが、外に出られたことが、こんなにもうれしいというのに、初めて自転車に乗れた時のような、スキーをはいて初めて曲がれたときのような、初めて泳げた時のような、女の子から初めて手紙をもらった時のような・・・・・・。
 でも今、廊下を歩きながら私を横目でみていった人は、私の心がゴムまりのようにはずんでいるのをたぶん知らないだろう。
 健康な時の私のように、哀れみの目で、車椅子の私をみて通ったのではないだろうか。
 幸せってなんだろう。
 喜びってなんだろう。
 ほんの少しだけわかったような気がした。
 それはどんな境遇の中にも、どんな悲惨な事態の中にもあるということが。
そしてそれは、一般に不幸といわれているいるような事態の中でも決して小さくなったりはしないということが。
 病気やけがは、本来、幸、不幸の性格はもっていないのではないだろうか。
病気やけがに、不幸という性格をもたせてしまうのは、人の先入観や生きる姿勢のあり方ではないだろうか。

・車椅子を押してもらって
さくらの木の下まで行く
友人が枝を曲げると
私は満開の花の中に埋まってしまった
湧き上がってくる感動をおさえることができず
私は
口のまわりに咲いていたさくらの花を
むしゃむしゃと食べてしまった

(星野富弘『新版 愛、深き淵より』立風書房、2000年)

 

〇2017年四季折々(4月9日~15日)
4月9日~10日に旅行する。
 親しくしている福島の友人夫妻と随時観光も兼ねて会いたいねと、今回は富弘美術館と日光東照宮などに行く。

・花の詩画微笑みかけて春うらら
 富弘美術館は星野富弘の故郷、群馬県みどり市東町にあり、美しい山々と湖、豊かな緑につつまれ道の駅にもなっていて、地方の静かな里のオアシスになっている。館内および周りの風景そのものが、優しく香り立つような「花の詩画」に相応しい美術館だ。
 特別展「春うらら」では、約80点展示され、様々な花の画に心に沁み込む言葉が添えられ、人となりを伝えるエッセイなどが紹介されてあり、いつまでも見惚れていた。催促され心残りを覚えつつ宿泊地へ。

・友と行く名残の雪の日光へ
 宿泊地は奥日光の森と湖と山々に囲まれて静かにたたずむ休暇村日光湯元。いろは坂を登るあたりから雪がかなり残っていて、気温もかなり冷え込んでいる。2015年にリニューアルした休暇村に相応しい趣を湛えた温泉地である。
 夕食は会席料理で日光名物の湯波や旬の食材を使用していた。歓談しながら美味しくいただく。「湯波=ゆば」は精進料理ひとつとして古来中国から伝わり、日光では開山の折に持ち込まれ、日光名物となっている

・春雪の風のささやく露天風呂
 奈良時代に開湯したといわれる歴史ある硫黄泉の源泉、日光湯元温泉の源泉から引いた良質の温泉らしい。風呂場から雪景色に彩られたシラカバやカラマツの林が広がり、湯の湖が望める。緩やかに風が吹きわたっていて、ゆったりと露天風呂など賞味する。一人だけ浸かることができる露天風呂添いにある壺湯に入り、友人と俳句をひねり合う。

・聞く前の開く心や水温む
 この旅行のメインは友人夫妻との交流だ。夜遅くまで歓談する。話題は次から次へと続く。お互いに気が置けない間柄で今思うことを何事も歯に衣着せずに話し合って面白く楽しい。こういう関係がすべての人との間にできたら楽になるなと思った。
 その中で、妻があるとき「とても疲れたな」と言った時、ある人から「それはあなたが思うだけでしょう」と言われ、それ以来その人とは話をするまいと思ったとの発言から、「聞く」が大層話題になった。心底聞いてもらえてないと思ったら、「もうそれでアウトだ」など話は続いた。交流は感覚の交信でもあり心の協働

・華厳滝春塵一気に流れ落つ
 翌日はまず華厳の滝を訪れる。男体山の噴火により堰き止められた中禅寺湖からの地表を流れる唯一の流出口大谷川にある滝。落差97mの滝を一気に流れ落ちる様は壮観で、日本三名瀑のひとつにも数えられている。
 渓谷北岸から見下ろす位置に観瀑台が設けられていて、そこから暫し眺める。雪が残っていて、壮大な水の流れを伴って幻想的な風景を醸しだしていた。

・神橋の水の妖精光る風
 神橋は日光東照宮の手前にある橋で平成11年12月に世界遺産に登録された。この橋はアーチ型の木造造りの橋で、その構造から山口県の錦帯橋、山梨県の猿橋と並んで日本三奇橋の一つに数えられている。
 橋の長さは28メートル、巾7.4メートル、高さ(水面より)10.6メートルあるそうで、高欄には親柱10本を建て、それぞれに擬宝珠が飾られ、橋板の裏は黒漆塗で、その他は朱に塗られている。朱塗に映える美しい橋と清らかな川の流れと重なりあう光景は見応えがある。

・あらたうと東照宮に春の猫
 日光開山1250年記念もあり、数多の観光客が訪れている。270余の石段を足よろけつつ奥の奥まで行き、平成の大修理に伴う展示もあり、大本堂三仏堂、薬師堂、修理中の様子など、国宝・重要文化財などを拝観する。日光東照宮の建物には、多様な動物の木彫像がみられ面白い。これらの動物のほとんどは平和を象徴しているそうだ。「眠り猫」は左甚五郎作と伝えられ、牡丹の花に囲まれ日の光を浴び、うたたねをしているところから「日光」に因んで彫られたとも言われていて、国宝となっている。また「見ざる、言わざる、聞かざる」の「三猿」も著名である。
 五重塔は「東日本大震災」のときも損傷がなかったそうで、五重塔の免震機能は「東京スカイツリー」の地震制振システム(心柱制振)にも対応されているという。
 こういうところを訪れると、その荘厳さとともに権勢による富の集結であり、多くの犠牲を伴っていることも思う。

・三椏や背に男体山の杉並木
 日光は、男体山をはじめとする日光連山を祖山として、強力な龍脈(大地のエネルギー)の発生源にあると言われている。その強い生気を持つと言われる東照宮から二荒山神社へ歩いて行く。
 妻は人や場所に敏感に波動を覚える体感がある。私には全くないのだが、そのような人は結構いるようだ。今まででもっとも感じたところとして出雲大社があり、それと同じぐらいにビンビン来るという。
 神社から続く杉大木の並木道の清々しい気を感じられる気持ちのいい道をゆっくりと歩いていく。道沿いに三椏の花が咲いていて、何かしら厳かな気風が漂っていた。

・春の旅なごりの快食蕎麦と湯波
街並みを歩きながら、見当をつけて奥まった飲食店に入る。瀟洒な店構えで暖炉が燃えていて、メニューもシンプル、壁には数多のギターが飾られていて、おそらく馴染みの常連客も多いのだろう。蕎麦と湯波の取り合わせを賞味する。ここまでの感想や次の計画などを打ち合わせて、帰りの車中も賑やかに、茨城空港で友人たちとお別れする。