日々彦「ひこばえの記」

日々の出来事、人との交流や風景のなかに、自然と人生の機微を見いだせてゆけたら、と思う。※日々彦通信から一部移行。

◎信念と態度について

〇昨日(17日)は誕生日で69歳になる。その日は、マスコミでは舛添東京都知事の辞職とイチロー選手の安打記録の話題が盛んだった。そのことに関連して〈信念と態度〉のことを考えた。

 ここでいう〈信念〉とは、意識的・無意識的にかかわらず、ある考え方を「疑い」をはさまず、かたく信じて動かない心・思い方のことをさす。自分ではそれほど強いと思っていなくても、結構あるように思っている。
〈態度〉とは、しぐさや話し方、出来事への対応や人とのつきあい方、瞬間的な反射、無意識の習慣、仕事の仕方や暮らし方、集団の中での位置の取り方や人生の姿勢等々のこと。

 鶴見俊輔は、「思想はまず、信念と態度との複合として理解される。同種の信念が、ちがう種類の態度によって支えられるようになる時、もとと同じ信念を要素として含みながら、もととはちがう思想がつくられる」(「転向研究、転向の共同研究について」)
「生きてゆくということは、論理の上では何の意味づけをも必要としない。しかし、実際には、人はそれぞれの仕方で、自分の生きてゆくことについての納得をもっている。その納得の仕方を、思想ということにする。」(「すれちがい―哲学入門以前」)

 

 鶴見俊輔にとって、大切なのは、観念(信念)よりも、むしろ態度のほうである。知識、学問、理論といったものが、個人の信念(観念)に影響を与えるが、信念が変わっただけでは思想が変わったとはいえない。態度が変わらなければ。と、態度から人、ものごとを見ていくことの一貫した態度をとり続けた。

 私に引き付けて見ていくと、「われ、ひとと共に繁栄せん」などの理念に共鳴して、ヤマギシズム運動に参画し25年余をそこで暮らした。その理念、信念について、ことばとしてよく使っていた・使われていたが、果たしてそれを支える〈態度〉については、何とも心もとないものであったと言わざるを得ない。これについて、おいおい触れていくつもりである。

 舛添氏については、よく知らないし関心もわかないので、取りあげるつもりはない。政治家にかかわらず〈態度〉の伴わないコトバ、観念で生きている人や信念集団は至る所にあると思っていて、自分のこととしては無論、それを支える〈態度〉に敏感でありたいと思っている。

 

 ここではイチロー選手についてみていく。私にとって彼の一番の魅力は、信念と態度がゆるぎなく結びついていることにある。
彼の言動は情報としてよく取り上げられるし、ネットなどで調べると、その言説は魅力にあふれている。
 そこに彼の人となり、〈態度〉が密接に伴っているように感じていて、スポーツマンとしてあるいは思想家として注目している。

 17日の神戸新聞は、いろいろな角度からイチロー選手を取りあげていた。その正平調欄で、
【(震災)後に彼はオリックス時代のユニホームに付けた「がんばろうKOBE」の文字について語っている。「本当は見えない所に張りたかった」。心にずっと秘めておくために。◆4257本目は地震から7822日目の朝のこと。復興住宅のテレビの前、自らの来し方と重ね、そっと手をたたいた人もいただろう。」と、記事にしていた。

各種エピソードについては、ひとり歩きする面もあるので注意が必要だが、いかにもイチローさんらしいと思った。

 

〇イチロー語録からいくつかあげてみる。
・「バットの木は、自然が何十年も掛けて育てています。僕のバットは、この自然の木から手作りで作られています。グローブも手作りの製品です。一度バットを投げた時、非常に嫌な気持ちになりました。自然を大切にし、作ってくれた人の気持ちを考えて、僕はバットを投げることも、地面に叩きつけることもしません。プロとして道具を大事に扱うのは当然のことです」

・「自分で無意識にやっていることを、もっと意識をしなければならない」
・「自分のできることをとことんやってきたという意識があるかないか。それを実践してきた自分がいること、継続できたこと、そこに誇りを持つべき」

・「なにかを長期間、成し遂げるためには、考えや行動を一貫させる必要がある」
・「やってみて『ダメだ』」とわかったことと、はじめから『ダメだ』と言われたことは、違います。」

・「失敗をしないでたどり着いた人と 全くミスなしで間違いなしでそこにたどり着いたとしても、まあつけないですけど。 そこにたどり着いたとしても深みは出ないですよ」
・「苦悩というものは、前進したいって思いがあって、それを乗り越えられる可能性のある人にしか、訪れない。だから苦悩とは飛躍なんです」

・大切なのは、自分の持っているものを活かすこと。そう考えられるようになると、可能性が広がっていく。

【参照資料】
・『鶴見俊輔著作集』(筑摩書房)。二巻「転向研究、転向の共同研究について」、三巻「すれちがい―哲学入門以前」
・上原隆『「普通の人」の哲学』(毎日新聞社、1990年)