日々彦「ひこばえの記」

日々の出来事、人との交流や風景のなかに、自然と人生の機微を見いだせてゆけたら、と思う。※日々彦通信から一部移行。

◎見た目の秩序と乱雑さ 1(エントロピー増大の法則)

〇エントロピー増大の法則から
 私たちの生命や生活、経済的な営みなどを含めて万物は、根源的に「エントロピー増大の法則」に支配されていて、自分たちの生命や生活を維持しようとする活動、あるいはエネルギー問題への取り組みなどは、エントロピーの増大を防ごうとする活動であるともいえる。

 エントロピーは、「無秩序な状態の度合い」「乱雑さ」を数値で表すもので、無秩序な状態ほどエントロピーは高く(数値が大きく)、整然として秩序の保たれている状態ほどエントロピーは低い(数値が小さい)となる。
 今では、エントロピーの概念は、熱力学や物理学の分野に留まらず、生命活動、情報理論や経済学、社会科学など広い分野で応用されている

 エントロピー増大の法則(熱力学の第二法則)は、「閉じた系(システム)」において、基本的にエントロピーは増大する方向に動く。自然界(世界)は、何らかの「開いた系(システム)」を導入しない限り、必ず「秩序から無秩序へ」という方向に進むという概念だ。


 具体的な例えで、どんな建物や建造物も風雪や風化から守るために腐食しない素材で造ってあろうと。数十年ほどすれば、大規模な修繕を行わないと立ち行かなくなる。

 生命体は、食べ物も食べず飲み物も飲まない状態(閉じた系)では、徐々に衰弱し死んでしまう。そこで、外部と(開いた系)を構成し、食物や飲物を摂取し、排泄することによって生命を維持しようとする。
 つまり、私たちは、外部から「マイナス(負)のエントロピー」を取り込んで、人間個体のエントロピーの増加をそれで打ち消すか、トータル的にエントロピーを減じることによって生きている。マイナス(負)のエントロピーは、「ネゲントロピー」と呼ばれている。

 しかし、エントロピー増大の法則から逃れることも限りがある。寿命がくれば、外部と相互作用を行う機能が衰え、ネゲントロピーの摂取が困難になり、やがて死を迎える。社会や経済活動も、ネゲントロピーを取り入れて生きている生命体に例えることができるだろう。

 生命や社会現象とエントロピー増大の法則につては、様々な論考があり、生物学者福岡伸一は「動的平衡」という概念で説明している。大雑把ではあるが以上のことを踏まえて、生命や脳の特質でもある「しなやかでゆらぎのある秩序」や乱雑さについて考えていく。

 整理整頓された部屋は、ほっと置くとだんだん乱雑になる。だが、掃除機をかけて一見部屋がキレイになったように見えても、それは掃除機の中に「エントロピー(乱雑さ)」を凝縮させたことでもある。その処理のことまで考えないとエントロピー自体は変わらない。


 個人レベルでは小さな課題となるが、組織、地域、国、社会と規模が大きくなるにつれて、見過ごすことができない問題となる場合がある。

 すぐに思い浮かぶのは、四大公害病(水俣病、新潟水俣病、四日市ぜんそく、イタイイタイ病)といわれているもので、いずれも戦後の高度成長期に発生した、企業の産業活動により排出される有害物質により引き起こされた病気である。企業としては、会社の秩序維持のため、高いエントロピーの廃棄物を海、川や大気中に排出する施策である。

 企業活動は、会社存続のために、従業員や株主を守るという名目で、日々真剣に、様々な工夫をし、模索を続けている。人員削除・整理、非正規雇用者採用拡大、人件費削除のための海外拠点設置等々。日本の特色と言われる、終身雇用や年功序列型待遇、さらに長時間労働も厭わない雰囲気なども、会社の秩序持続のためにそうなってきたともいえる。

 私の知人で、ある中小企業の社長さんから、会社維持のため、かなりの人にやめてもらったことが、痛い記憶としてつきまとっているという話を伺ったことがある。
 しかし、社会や働く人々、さらに自分にとって、というよりも、会社の秩序維持、成長のために様々な方策を施すことになりがちである。この辺りは、理想、理念を掲げた組織やコミュニティにも同じようなことがあるかも知れない。

 

 個人的なことでも、異質な要素を排除することで、掃除機の中に「エントロピー」を凝縮させたようなことで、秩序を保とうとしていることもあるだろう。
 今年の2月に妻が帯状疱疹にかかり、かなり高価な抗ウイルス薬を処方された。その後しばらく便秘症状が続いた。おそらく抗ウイルス薬による腸内細菌のバランスが崩れてのことらしい。その薬は1週間以上処方してはいけないらしく、その後は経過を見るという診断だ。特に処方はしていないが、神経の痛みは5月過ぎまで続いた。その場合、その薬で一時エントロピーは減少したが、本来彼女の身体が持っているしなやかな力も削がれたのではないだろうか。副作用などいろいろ研究されているだろうが、薬には、有効な面とともに、「エントロピー(乱雑さ)」を凝縮させる要素があるのだろう。

 いくつかの角度から、「見た目の秩序と乱雑さ」について考えていこうと思っている。