日々彦「ひこばえの記」

日々の出来事、人との交流や風景のなかに、自然と人生の機微を見いだせてゆけたら、と思う。※日々彦通信から一部移行。

◎おぐらやま農場について思うこと

〇おぐらやま農場からリンゴと梨が送られてきた。3年前から年間会員になり、随時各種果物などが送られてきて我家の食生活に潤いをもたらしてくれる。各品種の丁寧な説明書きとともに、ニュースレターも楽しみにしている。連載記事「畑が教えてくれたこと」など、いろいろ教えられることも多い。

「おぐらやま農場の原点」には次のようなことが書かれている。
・僕たちのねがいに「ひとのいのちに責任の持てる食べ物をつくりたい」ということがあります。
・食べる人と作る人とが心をつないでいける関係を築いていけないかとの試みが僕たちの手がけていることです。
・農業という営みが内包する無限の豊かさ、農村風景の持つ素朴な魅力、自分のいのちをつなぐ食べ物に積極的に関われる喜び、そんなことを感じあえる仲間の輪が広がっていくことを願っています。
 この原点をこころに抱きながら日夜励んでいることが、生産物や農場便りなどから伝わってくる。

 

 この農場に、農業というより「農」の営みを感じている。
私は「農」と「農業」を分けて考えている。「農」は自然・風土・環境や人との調和・共生のもとで成り立つ。
 一方、生産性・経済的効率を必要以上に求めがちな近代の農業は、突き詰めていくと人間に都合の良いように自然を征服・支配させていくのではないかと。厳密に分けることはできないにしても。
「食」は、人はなぜ生きるのかという根本問題と直結している。「農」のありかたは、人々の「食」生活を根底的に支える大きな要因になると思っている。

『安曇野発!農に生きる仲間たち』によると、農場主・暁生さんのテーマは「一介の百姓になりきる」こととある。彼は、様々なことから学び、生活実感から考え続け、安曇野の風土、農場をとりまく自然環境、育ちつつある苗木などの語りかけに耳を澄ませながら、万物を生かしている様々な「いのち」と交感をしつつ、いのちを注いで、いのちを養う生産物を作っているのではないだろうか。

 時折、ニュースレターに彼の趣味である詩作がのり、印象深い。そのなかの一部抜粋を挙げてみる。
・新春への希望(2017年2月号より)
何が大事なことなのか 自分はどうしたいのか
道理に適うことが 一番面白い道ではないのか
世間と違うことへ立ち向かう 勇気を俺たちは持てるか。

僕が歩いていく道を 少しずつ照らしてくれるのは
理に適うことを語る声の響き 彼らの情熱 底抜けの明るさ
これこそを 希望と言わずなんと呼ぶ 光はここに在る。

 

・水の故郷(ふるさと)(2017年4月号より)
山々から田畑から 安曇野の大地に滲みこんでいく水たちが
この地球に濾過されて 命のおおもとを写し取っていきます
いつしかそれは地に湧きだし 生き物たち私たちの命を潤します

レインコートの裾から滲みこむ 冷たい雨を感じながら
野山や田畑の草陰で そぼ濡れながら佇む生き物たちを感じながら
地球という水の惑星 安曇野という水の故郷を守りたいと想います。

 

*2015年4月にこの農場を訪れている。その時の感想を一部再録する。

◎安曇野地球宿訪問記2 

 21日の昼間、安曇野三郷小倉を散歩しながら、いくつかの農場を訪ねた。気持ちの良い空気の中、丁度桜が満開の時期であり、至る所に見事な景観を見せていた。

 ○おぐらやま農場訪問

 暁生さんのおぐらやま農場を訪ねる。15年程前に、私の知人の中で、まず、暁生さんがこの地で農場を始めた。その農場や安曇野の風土に魅力を覚え、以前の仲間や増田一家などが移住してくるようになり、今の状況になっている。

 後で分かったのだが、立派に見えた建物が倉庫で、こじんまりした倉庫と思ったところが自宅だった。増田家も新築中で、友人たちが、次は松村家だというような話をしていた。

 農場を案内していただき、そこでの同年輩の知人のYさんが仕事をしていて、少し話を交わした。出雲で妻の両親と一緒に暮らしていたことを伝えると、Yさんは、奇妙な団体に関わったのが理由でいまだに実家では快く受け入れてくれないこともあり、この地を選んだということだ。私たちの場合は、親や親族から歓迎されていたので、あまり実感はなかったのだが、そのようなケースも多いのだろうなと思った。だが、表情からは、生き生きしておられるように感じた。

  おぐらやま農場はWwoof(ウーフ:お金のやり取りなしで「食事・宿泊場所」と「力」そして「知識:経験」を交換する仕組み)のホストになっていて、このシステムの可能性を描いている。安曇野に限らないが、高齢化している農村地帯における地域社会づくりに齎していくような可能性も感じる。

  農場は炭素循環環境を用意することが、作物たちに一番喜ばれる道ではないかと、農産物を食べてもらう人たちも喜ぶ道ではないかと考え炭素循環農法で作っているそうだ。

 農場の生産物の一つ、リンゴの栽培では「本づくり栽培」といわれる品質本位の栽培方法を取り入れている。現在のリンゴ産地では「わい化栽培」という人の管理しやすい栽培方式が多い。その辺りのことも聞いてみたかったが、おそらく、自然界や生物の本来持っている力を最大限に引き出すことを願っているのだろう。

  暁生さんの農、農業に一生をかけている姿に触れて、逞しさを感じた。

『安曇野発!農に生きる仲間たち』によると、暁生さんの農業運営の原点は、宮沢賢治『農民芸術概論綱要』、トルストイ『イワンのばか』、テーマは「一介の百姓になりきる」こと。とある。